寺田's 学びを成長につなぐフォーカス発想のススメ
なぜ「おいしくないです」は日本語として不適切なのか?
昨日、いつもの調子で「古典読むべし」という話を書きました。
言葉と闘い、文脈を意識して読むためには、ハードルの高い本を丁寧に読む経験が絶対に必要です。
そうやって言葉がインストールされることで、私たちは伝わりやすい言葉を出力することができるようになるものなのです。
私はこれまで、何人もの著者の「本になる前の原稿」を読ませていただきました。
速読屋は「流れに不整合がないか」をチェックするのに都合がいいんですよ。速読で構造・流れにフォーカスして読むと、後で挟んだエピソードや、視点のズレが浮かび上がって来やすいものなのです。
その中で感じたことなのですが、「語り(講演)」が上手な人でも、「文章」が支離滅裂なことが非常に多いんですね。
まぁ、出力する際に使われる回路が違うらしいですので、そういう部分もあるのかも知れません。
あるいは、メラビアンの法則という言葉がありますが、そもそも話し言葉は「言葉」そのものではなく、声や話の抑揚、表情、雰囲気など多くの要素に支えられて成り立っているからということもあるでしょう。
なにしろ、書き言葉が支離滅裂になっている人が多い、と。
たとえば、
・主語と述語がかみ合っていない。「私は、電車という乗り物がエコなのです。」なんていう文を平気で書いちゃう。
・副詞の呼応ができていない。「とても〜とはいえない」、「まるで〜ない」のような組み合わせを無視する。
・文脈が途中でずれてきていて冒頭と結論が、まったくかみ合ってない。
・中心的主張と、それまでに展開された資料に整合性がない。
こういうことが起こるんです。
でも、本人は何回読み直しても、書き直しても、自分が支離滅裂な文章を書いていることに気がつかないものなのです。
それを編集者が修正していって初めて、かろうじて読める本に仕上がるというわけです。
本人が気がつかない理由はいくつもあると思います。
思い入れが強すぎて、省略された言葉、つまり行間を自分の思いで埋めながら読み直すため「それを初めて読む人」に伝わらないってこともあるでしょうね。
視野が狭く、人の話を聞くようなレベルで「言葉の逐次処理」をしてしまっていて、大きな流れの不整合に気がつかないとか。
でも、そういう酷い文章を書く人に話を聞くと、たいていの場合、名著、古典を読んでいないという要素が非常に大きいようなのです。
きれいな言葉、正しい日本語が「感覚」として身についていない、と。
文法的に間違っているかどうか分からないけど、なんだか変っていう日本語ってありますよね。
説明できないけど変。
これはある種「たしなみ」みたいなものであって、理屈じゃないと思うんです。
もちろん、理屈を学ぶことで、それがたしなみになるってこともあるでしょう。
その代表的な例が、タイトルにある「おいしくないです」っていう言葉。
グルメレポーターに多い表現です。「すごくコクがあるのに、しつこくないです。」というような表現。
民放のキャスターさんにも多いですね。(笑)
「です」って「だ」の丁寧な表現ですよね?
であれば「です」は基本的に「だ」で言い換えられなければいけません。
でも「しつこくないだ」は変。
「この花はきれいです。」と「この花は美しいです。」、この2つの文は似ていますが、「きれいです」は正しいけど「美しいです」は変。
分かります?この感覚?
実は「美しいです」という表現は、英語の授業(テキスト)でも使われますし、現在では「慣用的に使っていい」とされています。
でも、文法的には正しくない。
「きれいだ」はいえても「美しいだ」はいえない。
理由は簡単です。
「きれい」は熟語で名詞「綺麗」です。
でも「美しい」は形容詞です。
ま、このレベルは「慣用的にオッケー」なんでぎりぎりセーフ。
でも「うつくしくないです」「おいしくないです」は変。
丁寧表現として「です」を使いたいわけなんですが、「ない」の丁寧な表現は「ありません」です。
「美しくありません」が正解。
あるいは「美しくございません」(ウ音便になりますので「美しゅうございません」ですかね?)
ま、話し言葉なんてものは、時代とともにどんどん変わっていくものなので、10年後には国語審議会なんかで「ないです」は慣用的にオッケーってお墨付きが与えられるかも知れません。
ここで言いたいのは、文法云々のレベルではなく、感覚として綺麗な日本語、分かりやすい日本語は「たしなみ」によってしか身につかないということです。
自分の書いた、話した言葉が、ちゃんと伝わるものになっているかは、文法的にチェックすることは「本人にはほぼ不可能」なのであって、「センス」にかかってきてしまうものだ、と。
ということで、やっぱり頭をしっかり使って読まなければならない本を、丁寧に読めよってことですね。
くどいようですが、あと1本、同じテーマで書きます。次は「では、どういう本の読み方をすべきか?」というお話。
では、今からフォローアップセミナーの会場(名古屋・丸の内)に行って参ります!
●●

コメント
>「きれい」は熟語で名詞「綺麗」です。
の、
>名詞「綺麗」
って助詞が抜けてませんか?

投稿者 通りすがり : 2009年09月13日 11:54
あ、ツッコミありがとうございました。(^^;
雰囲気的には
名詞、「綺麗」です。
っていう並列のつもりで書きました。
分かりやすく書こうと思ったら、おっしゃるとおり「名詞の」とか「名詞である」とか書くべきでしたね。気をつけます。
ありがとうございました!(^^*
●●

投稿者 てら : 2009年09月14日 04:45
「おいしくないのです」だと「おいしくないのだ」になるから、OKですか?ちょっとニュアンスが変わっちゃいますけど。

投稿者 passerby : 2009年09月14日 15:39
「おいしくないのだ」の場合、「おいしくないの」に「だ」が着いていますね。
ですから、これは丁寧な表現として「です」に置き換えることが可能です。
「おいしくないです」は×
「おいしくありません」が○
「おいしくないのだ」は強調された表現として○
「おいしくないのです」は、その丁寧な形
ですね。
ちょっとニュアンスが変わってしまいますよね。
ナイスつっこみ、ありがとうございました!
●●

投稿者 てら : 2009年09月14日 19:52
「○○したいです」については、どう考えれば良いですか?
例えば「本を読みたいです」は変なのでしょうか。

投稿者 hi_tsuka : 2009年09月15日 23:25
「形容詞+です」は理論的には間違っていますが、日本語としては50年以上前から認められていますので、間違いとまで言わなくて良いと思います。
http://www.bunka.go.jp/kokugo/main.asp?fl=show&id=1000007021&clc=1000000108&cmc=1000005596&cli=1000006832&cmi=1000006836
「ないです」と言えない(言うべきではない)のは、「ある」の否定形として「ない」を使うので、それぞれ丁寧にすれば「あります」⇔「ありません」となるからです。
「形容詞+です」は認められているものの、本来は「美しくある」と言うべきですので、丁寧にして「美しくあります」、それを否定して「美しくありません」となるわけです。
また、「あります」をさらに丁寧に言うと「ございます」なので、「美しくございます」がウ音便化して「美しゅうございます」となります。
「形容詞+です」はあくまで例外的に認められているものなので、そこから派生して考えることは間違いだと認識すればすっきりするかと思います。
なお、「綺麗」は名詞ではなく、形容動詞です(形容動詞という品詞を認めない場合は名詞として捉えますが)。
「綺麗」だけでなく「綺麗だ」という一語ですので、丁寧に言えば「綺麗です」となります。

投稿者 IT : 2009年09月16日 00:48
>hi_tsukaさn
「読みたいです」は変ですが、ではどう言い直すべきか?難しいですね。(^^;
正式には「読みたくございます」⇒「読みとうございます」でしょうけど。。。
まぁ、そういうわずらわしさから、この「です」が認められているってことなんでしょうね。
あ、でも「読みたいでしょう」「美しくないでしょう」は文法的にも正しいんですよね。きっと。
このあたり、頭で考えると分からなくなってしまいます。
だからこそ「たしなみ」として体で感じるしかないのかなと思っています。
>ITさん
詳しい情報と解説、ありがとうございました。
私もメルマガで似たようなことを書いていますので、よかったらそちらもお読みいただければ幸いです。
>>http://www.office-srr.com/biz/column/articles/mmbn/mm20090911.html
>>「綺麗」は名詞ではなく、形容動詞です
正式にはそうだと思います。が、漢語の名詞+「だ/なり」で構成される形容動詞ということで、今回は「名詞」扱いしてみました。
ご指摘ありがとうございました!
●●

投稿者 てら : 2009年09月16日 04:27
>思い入れが強すぎて、省略された言葉、つまり行間を自分の思いで埋めながら読み直すため「それを初めて読む人」に伝わらないってこともあるでしょうね。
「・主語と述語がかみ合っていない。」例ですね。あまり人のことは言えませんな。

投稿者 通りすがり : 2009年09月17日 02:20
>通りすがりさん
これは「分かりにくい」例であって「かみ合っていない」例ではありませんよ。
「省略された言葉、つまり行間」の部分が伝わりにくかったのかも知れません。
この文では「主語」が省略されています。日本語の典型的な形ですね。ロジカルな文章としては減点対象ですか!(^^;
この文は、以下のような構成になっています。
1.思い込みが強すぎて、伝わらないってこともあるでしょうね。
2.それを初めて読む人に伝わらないってこともあるでしょうね。
3.【省略された言葉、つまり行間】を自分の思いで埋めながら読み直すために。
いかがでしょうか?ガッテンしていただけましたでしょうか?
とはいえ、伝わりにくかったのは確かだと思います。
ご指摘、ありがとうございました!
●●

投稿者 てら : 2009年09月18日 00:13
横レス失礼しますが、
・文脈が途中でずれてきていて冒頭と結論が、まったくかみ合ってない。
だと思いました。
文章構造の重要なポイントとしては
@思い入れが強すぎて → 自分の思いで埋めながら読み直す
A省略された言葉 = 行間
というところまでは問題ありませんが、
B自分の思いで埋めながら読み直すため →? 「それを初めて読む人」に伝わらない
という因果関係がうまくつながっていないように思います。
B自分の思いで埋めながら読み直すため →? 「それを初めて読む人」に伝わらない、ことに気づかない
とすると、原因と結果がうまく結びつきます。
文章は更に長くなり、理解しやすくなるかはわかりませんが。
#「読み直す」の隠れ主語は「作者」で、「伝わらない」の隠れ主語は「文章」なので、やっぱり主語と述語のミスマッチもあるのかな・・・?
自分の思いで行間を埋めながら読んでいるので、気づきにくいかとは思いますが。
いや、論理的におかしくても、文章の意図は伝わったので、個人的には問題ないと思いますけど。

投稿者 K : 2009年12月28日 14:16
逆に
B自分の思いで埋めながら読み直すため、情報が欠落してしまい → 「それを初めて読む人」に伝わらない
とすると両方とも「文章」が主語になる、とか。
自分の短いコメントでも、読み直すとわかりにくいところや不整合が出てきますね(汗
勉強になります。

投稿者 K : 2009年12月28日 14:22
>Kさん
もろもろご指摘ありがとうございます!
なるほど。いろいろ書いておきながら、私の文章もいろいろ不整合を起こしてますねー。
いや、お恥ずかしい限り。穴を掘って埋まりたい気分です。(−−;
またぜひ、いろいろご指導をお願いします!
●●

投稿者 てら : 2009年12月28日 16:43
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